レスラー・人

輪島を再評価。今更だけど天龍vs輪島の初顔合わせを振り返ってみる

プロレスの歴史的な事件の一つである前田の長州顔面蹴撃事件。そして、その事件の当事者となる前田に影響を与えた人物が二人いた。それは全日本プロレスの天龍源一郎と輪島大士。プロレスの中でもある意味有名な絡みだが、この絡みを見たことで前田日明の蹴撃事件があり、解雇された前田が第二次UWF立ち上げがあり、そのU系からPRIDEなどの総合格闘技ブーム、新日本Uインター全面抗争といったことにつながっている。と、いうことから天龍と輪島について振り返ってみることにする。




相撲出身という共通点

これは誰でも知っていると思うが、天龍、輪島共にレスラーになる前は相撲取りであった。番付で言えば天龍が前頭筆頭が最高であるが、輪島は横綱を勤めている。
天龍は下積みからレスラーを行い、実力をつけてエースであるジャンボ鶴田との戦いを繰り広げていた。その一方、輪島は横綱であることからスター待遇であった。

横綱という日本人であれば誰もが凄いと思うブランド持っていた輪島であったため、キャリアを積むには年齢的厳しく角界引退後ブランクがあってもデビューすることができた。これにはジャイアント馬場の温情も含まれていた。

ただファイトスタイルはというと天龍は相撲の要素は残っておらず完全なプロレスラーになったが、輪島はなかなか相撲の感じが抜けなかった。そのため、横綱という期待を大きく裏切られたファンはその試合ぶりを酷評していた。

初顔合わせのシングルマッチ

87年の最強タッグ前に組まれたシングルマッチ。ここで天龍と輪島は顔合わせをする。この頃の天龍はと言えば天龍革命の頃で、ジャンボ鶴田と激しくやり合っていた勢いのある時期だった。阿修羅原との龍原砲の頃である。一方、輪島は前年の86年にタイガージェットシン相手に日本でビュー。相撲の癖が抜けず、動きの悪さや攻めての少なさ、攻撃の遅さなどプロレスラーとしての動きが洗練されることなく、失笑される時代が続いていた。

天龍と輪島がこの試合で初めて顔を合わせた際に、解説のジャイアント馬場が「輪島は練習をしていない、させなかった自分が悪いのだが..」と練習不足を明言していた。
「させなかった」という発言は全く練習をしていないことではなく、新人のような基礎を積ませる機会を与えなかったことへの反省と思われる。それは横綱がレスラーになるということ出会ったため、鳴り物入りとなるのは仕方がないことだったのであろう。

試合は序盤はレスリングの展開を行うもどこかしらぎこちなさがあった。天龍と輪島の噛み合わせが悪いのか、ところどころに両者戸惑う動きがあった。そして、しばらくすると天龍の攻めが厳しくなる。輪島が左足を痛めていることから、レスリングシューでローキックを連発し始めた。あまりにも蹴りが痛かったのか、輪島にも火が入り激しいチョップ、逆水平チョップを連発する。ゴールデンアームボンバーを繰り出し天龍を倒した後、おもむろにコーナーポストに登りだす。どう見ても反対側のコーナーに登った方が天龍には近かった。

もしかしたらダイナマイト・キッドのように飛ぶかもしれない・・・

結果は天龍がフラフラっと起き上がり、輪島のいるコーナーに引き寄せられた。そこで輪島はダイビングボディアタックを繰り広げる。技は見事に命中するも仕掛けた輪島が場外へエスケープする。着地の時点で足を痛めたということであったがリングで痛がらなかった。輪島謎のエスケープである。

その後、ハーフボストンクラブやローキック、足4の字固めなど天龍の容赦のない攻撃が続く。輪島はその激しい攻撃を全て受けて見せた。それは上手に受け身をとった訳でもない、無尽蔵のスタミナがあった訳でもない。ただ、単純に体の頑丈さだけで受けていた。輪島には回避する技術、攻撃に転ずる技術、攻撃を続ける技術が無かった。そのため、天龍の攻撃が続いてたのである。

最後はエプロンサイドにしがみつく輪島に対して、天龍がボディーアタックで場外に突き落として、場外カウントアウトで勝負は決する。この試合、輪島で光ったのは、容赦なく蹴られる頑丈な体とチョップだけだった。しかし、デビュー2年目の選手が天龍と戦っていると考えると凄いことではあった。

プロレス史に陰ながら影響を与えた

この試合で天龍が激しく容赦なく攻め立て、輪島が耐えるという構図が出来上がった。この構図は最後まで続くことになる。輪島は再三、攻め手の少なさ、つなぎの弱さといった攻撃面でのスキル不足が指摘されていた。晩年には減っていたが攻撃に躊躇することも多くあった。それはやはり基礎的な練習不足と長年体に染み付いた相撲のクセでもあった。華々しく元横綱がデビューしたが、まともにプロレスをすることができない、それがプロレスファンからすれば大きく物足りないものであった。

天龍は輪島への攻撃を容赦のないものにし、輪島の頑丈さ・耐久性を際立たせることに成功した。何もできない輪島から耐える輪島へと変貌を果たすきっかけとなる。ここには天龍の「たとえ横綱だった人間でも簡単に出来るほどプロレスは甘くないということ。それから、やっぱり横綱だった人間はヤワじゃないんだよということ。この二つを皆に知ってほしかった」という思惑があった。

もし、この対戦で天龍がただ勝つだけの試合をしていたら、どうなっていただろうか。そこには違ったプロレスの未来があっただろう。この天龍の輪島に対する激しい攻撃が前田日明の危機感を煽り、長州の顔面襲撃につながったと思うとプロレス史を動かしたのは輪島もその一人かもしれない。

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