高度情報化社会となった今、何かと効率化や短時間化を求められて息苦しさを感じている人も多いだろう。この息苦しさはのちにストレスへとつながり、体調を崩したり、メンタルが弱ってしまったりといいことは無い。もし自分の部下や周りの人がこのようになっていたらどうすべきか。それはゆっくりと回復する時間を与えることが望ましい。今回は時間を与えることにかけて手腕を発揮したジ・アンダーテイカーから、その技術を学ぶことにする。
ジ・アンダーテイカーとは
もし、ジ・アンダーテイカー(以降テイカーと表記)のことを知らないというのであれば、それは大手を降って大通りを歩いては行けないかもしれない。それくらいメジャーな人物であり、「地獄の墓掘り人」といえばわかるだろう。2mを超えるその巨躯とその風貌はみるものに恐怖を与える。怪奇派としてアメリカのプロレス団体であるWWEで長年トップを務め、3月に行われているプロレスの祭典「レッスルマニア」ではブロック・レスナーに破れるまで21年無敗だった。
墓つながりでツーストン・パイルドライバーを、また長身を活かしたチョークスラム、ベビーフェイス転向後はラストライドをフィニッシャーとして使用していた。
WWF(現WWE)ではマネージャーのポール・ベアラーと一緒に地獄の墓掘り人としてブレイクを果たす。
テイカーの凄いところは卓越した能力である。例えばあるレスラーがリング上から会場にいないテイカーを挑発していると突如会場が暗転、数秒後に再び明かりがついた時に相手の後ろに立っていたりする。自分からリングを下から突き破って登場し、相手をリング下まで引き摺り下ろすこともあった。また、棺桶マッチに破れ、棺桶に閉じ込められて爆破されたこともある。
ポール・ベアラーと一緒に行動していた頃には、金のシェーカーが無いと力が発揮できないこともあった。
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デスマッチが多いレスラー
テイカーを語る上で欠かせないのがデスマッチであろう。特に生き埋め戦と言われるベリード・アライブ・マッチは、地獄の墓掘り人という異名を誇るテイカーであることからこそ考えられたデスマッチ形式である。ルールは至って簡単で、ステージに特設された墓穴に相手を落とし、上から土をかぶせるというもの。被せられた時点で敗北が決定する。
1996年10月に行われた対マンカインド戦では勝利しマンカインドを埋めるも、裏切ってマンカインドについていたポール・ベアラーがジ・エグゼキューショナー(テリー・ゴディ)を手引きし、逆に埋められることとなる。そして埋められた墓にマンカインドがスコップを突き刺し退場、墓めがけて落雷が落ちる。すると地面からテイカーの右手が出てきて会場が騒然として終わる。
このほかオースチン戦やビンス・マクマホン戦、ケイン戦、やビッグショーと組んでのロック・マンカインド組との対戦もあるが、実はシングル戦では全て乱入があり埋められている。そしてこの生き埋めのあと、本当に治療のためにしばし休息に入る。
死闘のヘル・イン・ア・セル
そんなテイカーのデスマッチにはベリード・アライブ以外でもっとも語り継がれているデスマッチがある。プロレス史上もっともインパクトのある試合を生み出したデスマッチがヘル・イン・ア・セルである。このデスマッチは金網デスマッチ同様、四面を金網に囲まれており、合わせて天井を金網で覆われている。通常の金網デスマッチが金網から出れば勝利になるが、この形式では脱出は勝利とならない。ベリアードアライブマッチはテイカーをテーマとした形式だが、テイカー自身は実にこの形式での戦いが多く、また残したインパクトも強い。
1998年6月のキング・オブ・リングのマンカインド戦、これはプロレス界に衝撃が走った。このデスマッチはケージの上に上がって戦うことが多く、テイカーvsマンカインド戦でも例外ではなかった。ケージの上で椅子を持って待ち構えるマンカインド、登っていくテイカー。殴り合う両者だったが、マンカインドが椅子の上にDDTをしようとする。もし、DDTをしたら突き抜けるであろうところ、テイカーは脱出し、逆に天井から実況席に投げ落とす。マンカインドは6mはあろう高さから投げ落とされるのである。
あまりの衝撃に場内騒然。会長のビンス・マクマホンが出てきたり、テリー・ファンクが心配してきたりする中、マンカインドがストレッチャーで運ばれていく。マンカインドがテリーやレフェリーの制止を振り切り、再びセルの上に上がっていく。一度中止になった試合が再開されたのである。
上がってきたマンカインドに対し容赦のない攻撃をテイカーが仕掛ける。ケージの上に椅子を置いてそこにチョークスラムをすると、マンカインドは金網を突き抜けリング上に落下。実に2度目の落下である。ここはマンカインドの狂人っぷりとバンプの凄さが際立つ。
失神しているマンカインドを守るようテリーが間に入るが、テイカーがふんわりとチョークスラム。ボロボロになりながらもどうにか試合を続けようとするマンカインドとテイカーだが、ダメージの大きさからマンカインドがほとんど動けていない。試合を成立させるためにはある程度マンカインドの体力の回復が必要である。そこでテイカーはマンカインドの体力回復の時間を与えるため驚きの行動を取る。
上手な時間の与え方
敵対する構図がある以上、表立って労わる事が出来ない。また、反則裁定無しの為インターバルのようなものは無い。そこでテイカーはごく自然なプロレス上の流れで相手に時間を与える方法を思いついた。ここで閃いたプランは場外のマンカインドにトペを狙うも避けられて自爆、ダメージを負ってダウンするというものである。しかし、現実問題としてマンカインドがトペを躱す余力も無い。そこでテイカーは思い切ったことをする。
マンカインドから2mほど離れた無人の位置に向かってトペを敢行し、金網へ激突!晴れて自爆をしてマンカインドに回復の時間を与えることに成功したのである。角度によってはマンカインドに躱された感じも出す事ができ、これほどまでに上手に回復時間を与えた人物がいるだろうか、と感心さえする動きである。この結果、本当に息を吹き返し、リング上に大量の画鋲を撒き散らす。テイカーは必殺のマンディブルクローを受けながらもマンカインドを背負いあげ、画鋲の上にマンカインドを落とす。さらに画鋲の上にチョークスラム、そしてトドメにツームストンパイルドライバーでこの死闘は決着する。
度肝を抜かれっぱなしで一度は中止になろうとした試合が、マンカインドのプロとしての根性とテイカーの機転の効いた時間の与え方によって最後は歴史的な試合となった。
もし、自分の周りに根性で立ち直ろうとする人物がいるのであれば、多少自分がダメージを受けるとしてもテイカーのように上手に時間を与えるといいだろう。その人物はきっと回復する。そして結果としてもの凄いものを生み出す原動力となることだろう。
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