2018年6月、皇帝戦士ビッグバン・ベイダーが肺炎のためこの世を去った。1987年に衝撃的な登場以来、長年日本マット界で活躍した外国人レスラーであった。圧倒的なパワーを生かしたファイト見応えあったが、巨漢にも関わらず空中戦ができることもありインパクトは絶大だった。どちらかといえば荒削りなイメージがあるが、心配りもあり、アントニオ猪木への忖度もできたほどである。今回はベイダーから上手な忖度の仕方を学びたい。
ビッグバン・ベイダーとは
これだけニュースになって取り上げられているのだから今更語るのもどうかと思うが、万が一知らない人のために説明しよう。ビッグバン・ベイダーは日本マット界にセンセーショナルなデビューを果たし、一気にトップトップまで上り詰めたレスラー。CO2の吹き出す甲冑を纏い入場。身長190cm、体重170kgという恵まれた体型から圧倒的なパワーで相手をなぎ倒してきた。試合の時は紐のようなマスクを着用している。黒と赤を基調としたコスチュームの胸の部分には「VADER TIME」と記されていた。
ベイダーハンマーと呼ばれるアームパンチ繰り出し、ボディアタックやボディプレスで攻め、時には投げっぱなし、時にはムーンサルトプレスを繰り出して観客の度肝を抜いたのは言うまでもない。
新日本のIWGPヘビー級王者になっただけでなく、全日本の保有する三冠ベルトも王者、WCW王者にもなっている。また同時期に在籍していたクラッシャー・バンバン・ビガロとともにIWGPヘビータッグも制した。
衝撃的な日本デビュー
ベイダーといえばTPGのことが欠かせない。TPGとはたけしプロレス軍団の略で、ビートたけしがプロレスに挑戦するていの組織だった。どちらかと言うとバラエティ的な感じもするが、邪道外道、スペル・デルフィンといったのちに名を馳せるレスラーの入門のきっかけにもなっている。ベイダーはそのTPGが新日本プロレスに送り込んだ刺客だった。
ベイダーの初参戦となる1987年12月27日の両国大会では、藤波・木村組vsマサ・ベイダー組のカードが組まれていた。ところが当日、一緒に入場してきたガダルカナル・タカとダンカンがリングに上がり、受け取ったのは猪木だから猪木と戦わせろと猪木および会場を挑発。その結果、猪木長州のIEGP戦は流れ、急遽猪木vsベイダーのカードが組まれた。しかも長州はベイダーと入れ替わる形となり、藤波・木村組vsマサ・長州組のカードに組み込まれた。
流石にこれには猪木長州戦を期待していた観客が納得せず、暴徒化することとなる。試合直後、危機感を感じた長州がマイクで不満をぶちまけ観客に落ち着くように促す。そしてさらに急遽変更になった猪木ベイダー戦の前に猪木長州戦がまた急遽組まれることとなる。
猪木長州戦ではセコンドの馳の乱入により長州の反則負けとなり、そのままベイダー戦へ突入する。猪木ベイダー戦では一試合やっている猪木を一方的な展開で攻め続ける。そして意外にも通常の痛め技の流れで繰り出されたオクラホマ・スタンピートで3カウントをベイダーが奪い場内が騒然とする。試合は2分49秒と短時間だった。
猪木が良いところなく終わった両国大会だが、ベイダーとしては猪木に完勝し力を示した大会だったと言える。のちにベイダーはIWGPヘビーを戴冠するなど新日本には欠かせないトップレスラーとなった。このことから87年12・27両国大会だけ見れば大失敗だが、その後のベイダーの活躍と新日本のカードの盛り上がりを考えれば大成功と言える結果だった。
忖度できる外国人レスラー
新日本プロレスの常連となったベイダーだったが、その後アメリカWCWでも活躍。またスーパー・ベイダーとしてUインターにも登場し高田延彦と対戦。Uインターのルールで寝技で攻め込んだり、アームパンチでダウンを奪うなど大会を大きく盛り上げた。
また1996年1・4東京ドームでINOKI FINAL COUNT DOWN 5thの相手として猪木と対戦。試合はボディチェック時にベイダーが猪木に張り手を入れる紀州から始まる。試合は半ば一方的にベイダーの攻めが繰り広げられる。中でもぶっこぬきジャーマンは猪木の首がくの字なる衝撃だった。ただ猪木もやられっぱなしではなく、ベイダーアタックを躱して、倒れているベイダーに向かってダイビングニードロップ、場外でイス攻撃など反撃に出ている。そしてグラウンドで腕を決めにいこうとする。
ベイダーがチョークスラムを繰り出すと猪木の体がくの字になる。もう、猪木死ぬんじゃないかと見ていて心配となる試合。
最後はカウンターでボディスラムをどうにか決めた後、腕ひしぎ逆十字固めで猪木がベイダーからタップを奪う。猪木が勝つわけだが、ベイダーの腕の向きやホールドしている猪木の引き手の角度などを考えると腕が伸びきっていないように見えるわけだが、ここにはベイダーなりの忖度があっているわけである。それは試合後にも、猪木に握手を求めっているところにベイダーの大人としての振る舞いが垣間見れることができる。
決してベイダーが勝つことがベストではない。また、猪木にただ負けることもベストではない。猪木が花を持つような厳しい攻めを繰り出しつつ、沸騰するような展開に持ち込み決める。これはただ相手を思いやるだけではなく、興行全体を思いやった行動である。
「忖度」とは他人の気持をおしはかることである。ベイダーだからこそ猪木のファイナルカウントダウン5戦目を務め、猪木の気持ちを推し量ることができたのである。ベイダーが急逝したが、多くの人に忖度する大切さは伝わったであろう。
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