消費経済が高度化した今、モノを売るための手法も様々なものが出てきた。近年バズマーケティングやバイラルマーケティングといった拡散を活用したマーケティング注目を浴びている。プロレス界にもバズマーケティングを仕掛けて大成功した事例がある。
まだインターネットすらない時代に仕掛けられたバズマーケティング。その際たる例としてタイガー・ジェット・シンについて考察していく。
タイガー・ジェット・シンとは
日本国民の9割は知っているであろうタイガー・ジェット・シンであるが、インドの狂える虎として新日本プロレスを支えてきた外国人レスラーである。
インド人ということでターバンを頭に巻き、サーベルを持っているイメージがあるだろう。日本では新日本プロレス初期を支えたヒールレスラーである。
その悪役ぶりは徹底されたもので、日常は特に狂乱ぶりはなかったがファンにジェット・シンであることがわかると徹底してヒールっぷりを見せていたという。
サーベルを持っていたが先端で刺したことはほぼ無く、柄の部分で殴打する打撃武器として使用していた。得意技は頚動脈部分を掴むコブラクロー。そのほかサミングなど反則攻撃も行なっていた。
来日当初からアントニオ猪木とは因縁関係にあり、腕折り事件など過激な抗争が続いた。そしてこの来日当初からの因縁関係こそがバズマーケティングの成果でもある。
新日本プロレスで仕掛けたマーケティング
当時、日本のプロレス会には日本人対外国人という構造が根強く人気があった。外国人レスラーはNWAと太いパイプをもつ全日本プロレスにいくことが多く、有名な選手は新日本に登場していなかった。
タイガー・ジェット・シンも日本では全く無名で、どのようにして売り込むかという課題があった。そこで新日本プロレスはジェット・シン側にアントニオ猪木のスケジュールを密告する。そしてある計画を実行に移して、世間を騒然とさせたのである。
新宿伊勢丹前襲撃事件
1973年11月5日タイガー・ジェット・シンを含む外国人レスラーたちが新宿伊勢丹前で夫人と一緒に買い物中のアントニオ猪木を襲撃する。白昼堂々の襲撃に猪木は流血し、新聞に狂った外国人による猪木襲撃としてでかでかと報道される。
このことで全く無名の外国人レスラーが話題となり注目を集める。そこで新日本プロレスはリングで猪木とシンが決着をつける形を取る。ここから猪木vsシンという抗争が始まるのである。
インターネットやSNSがなく、即効性があり広く拡散されるのがテレビ・ラジオ・新聞という時代の中、プロレスに興味がない層にも広く認知してもらうために「襲撃事件」を起こしたわけである。
結果これは大成功であり、タイガー・ジェット・シンの日本での知名度は一気に上がったわけである。
現在のマーケティングとして
SNSが普及している現代、情報は飛躍的に拡散するようになった。またその反面、情報過多になりしっかりと認知されにくくなったとも思える。
ではどのようにすれば良いのか。やはりそこにはコンテンツの強さが必要であろう。特に響かないフックのない情報が拡散したとしてもそれは認知には繋がらないのである。
強くフックのあるコンテンツこそ拡散されやすく、情報として残っていくのである。
バズマーケティングのほか、バイラルマーケティングという手法もよく行われている。これは感染するようにSNSでの拡散を起こしていくやり方であるが、やはりこれもコンテンツとして優秀なものでなければ残らないであろう。
これからの時代のプロレスも小手先で人気を得るのでは無く、プロレスの良さ、しっかりとファンを獲得できる話題や大会運営が重要ではなかろうか。